欧州でのテロや、中東の政情不安など、ニュースを見ていると世界は昨日より悪化している印象を受けます。また「最近 悪質な事件が増えた」と聞くことも多いでしょう。これらは、果たして本当にそうなんでしょうか。
本記事では、データで見たとき世界は改善しているか否か、心理学者のスティーブン・ピンカーによる講演をご紹介します。
概要
スティーブン氏によると、貧困・戦争・独裁国家の数・テロの犠牲者、それぞれの面で、2017年は1988年より改善しているようです。他にも平均寿命は伸び、自動車事故で死亡する確率・落雷で命を落とす確率は減少しています。
世界が良くなったことと、健康・富・安全・知識・余暇が改善したことは、少なくとも現代の私たちの価値観ではイコールとみなして良いでしょう。
ではなぜ、私たちは世界が良くなっているとは感じないのでしょう。
はじめに、ニュースでは決して世界は良くなったことを報道しません。ニュースは起こった出来事を報道するため当然ですが、さらに、世界が「良くなっている」にも関わらず、使用される言葉は、世界のあらゆるメディアでよりネガティブな傾向を強めているようです。
また、人は自身が思い出しやすいものに基づいて判断する傾向が強いからだと言います。「利用可能性ヒューリスティック」でてっとり早くリスクを評価するためなのです。何かが起こったから記憶に残るのであって、そこに認知的なバイアスが生じます。
悲観的な見方には利点があるのでしょうか。現状に満足することへの予防線となる?
スティーブン氏は断言します。正確であることは良いことで、正しい結果に基づき世界を見ようと。
悲観主義は運命論を招きます。運命論を盲信すると、どんなに良くするために努力しても結局世界は滅亡するのに無駄なこと、という無力感に苛まれます。また過激主義も問題となります。現状が良くないものだと思い、とことん現行制度を破壊するでしょう。
それでは、良くなる つまり「進歩」とは何なのでしょう。スティーブン氏いわく、進歩は思想によって導かれた人間の努力の結果です。進歩は問題解決の方法なのです。気候変動対策に脱炭素化を進め、核戦争を避けるため核兵器を廃棄といったことです。
現在は完璧な世界ではありません。そもそも完璧な世界などなく、それを求めることは危険です。しかし、私たち人類が知を適用し続ける限り、改善することに限りはありません。
認知バイアス
今、行動経済学をすこーしだけかじっているのですが、経済は人々の感情で動いている点に大きな感銘を受けています。
人が真に合理的な生き物であれば、株価の暴落が暴騰より起きやすいことはないでしょう。また同じ制度であっても、「希望すれば加入、何もしなければ加入しない」より「何もしなければ自動的に加入、非加入の意思を示せば非加入」のほうが、圧倒的に加入率が高いようです。同じ事象でも、ニュースの見出しで受ける印象は大きく異なります。
アメリカの経営学者が書いた本の中で、「優秀な人を引き抜いたのに期待ほどの成果をあげない」という現象が紹介されており、理由は「前職場でサポートする人たちあっての好成績だったから」だったそうだ。我々が「すごい個人」と認識してる人もただ「すごいチームのフロントマン」である可能性がある。
— 西内啓 Hiromu Nishiuchi (@philomyu) 2018年8月7日
↑なんてまさに、根本的な帰属の誤りですね。
スティーブ氏の述べていることが全て正しいと考えることも危険ですよ。スティーブン氏が確証バイアスを元にデータを選択した可能性だってあるのです。
正しく判断することは難しいですが、正しく判断する確率を上げるために「進歩」したいですね。これも認知バイアスでしょうか?(笑)