星の数だけ気象がある『惑星気象学入門』

 

同じ太陽系の惑星でも気象は大きく異なります。太陽からの距離による温度差だけではなく、地球とは全く異なった想像を超えた世界が広がっているようです。

本書では、金星,地球,火星,木星の気象ついて章立てで説明されていますが、ここでは金星と火星について、簡単にご紹介します。

金星

金星と聞いて思い浮かぶのは、明けの明星,宵の明星,硫酸の雲,黄色っぽい…などではないでしょうか。ただ同じくお隣の火星と比べて、イメージが湧きにくい惑星です。

高速の大気の流れ

金星を覆う雲を観測すると、超高速に動く大気の流れが観測されます。その速さは地球では30m/sに対し、100m/sに及びます。3倍程度かと思われるかもしれませんが特筆すべきは自転速度との関係です。地球の自転速度は1日ですが、金星は大変長く234日。それに対して大気の流れが100m/sなのです!

速度のピークは地表70kmあたりで、地表に近づくほど低下するようですが、それでも自転速度の数倍の速度となります。

この高速の大気の流れ「スーパーローテーション」の原因説明には最終章の1章が割かれているので、是非実際に内容を確認してみてください。

温度と圧力

金星の地表付近の温度は摂氏460℃,圧力は92気圧と、地球とは様子が大きく異なります。その原因は、金星の大気の主成分である二酸化炭素にあります。地球の場合、多くの二酸化炭素は海に溶け込んでおり、大気の主成分は酸素と窒素です。

惑星の気温は、もちろん太陽からの距離が重要ですが、惑星の太陽光の反射率(アルベート)も大きく影響します。金星は全天が雲に覆われており、アルベートが70%に達するようです。*地球は30%

アルベートから計算された金星の地表付近の温度は、-49℃と実際の値と大きく異なります。これに影響するのが、昨今あまり騒がれなくなった温室効果ガスとしての二酸化炭素の働きです。金星の場合、赤外線吸収気体である二酸化炭素を含む大気の層が何百,何千とあるようです。

更に正確に計算するためには、以下の手続きが踏まれます。具体的な説明は本書を参照してください。

  • 温度による赤外線の放射波長
  • 二酸化炭素の吸収波長
  • 太陽光の地面への到達率
  • 対流の効果

これらを加味して計算した結果は、実温度と近い値が得られたようです。

火星

火星の地表の様子は、金星と比較してイメージしやすいです。大気がないため地表データが金星より豊富にあり、映画等でもたびたび示されます。(映画「オデッセイ」面白かったですね)

熱しやすく冷めやすい

火星は地球より太陽から遠いため、もちろん太陽光の強さは小さくなります。火星の大気の主成分は二酸化炭素で温室効果が期待されますが、絶対量が小さいため、熱容量が小さく、熱しやすく冷めやすい状態にあります。昼夜の寒暖の差は100℃もあるそうです。

また大気が少ないということは、熱移動の媒体も少ないということになり、南北の温度差も大きくなります。

大気量の変化

火星は地軸が約25°傾いており、明確な季節変化があります。冬は低温で大気中の二酸化炭素が凍結してしまい、大気量が季節によって変化するようです。これは地球では中々想像しにくい現象ですよね。

北半球,南半球で季節の変化が逆になるため、打ち消し合って平均の大気量は一定になるかと思いきや、火星の公転軌道は地球より楕円形で太陽光の強さが一定でないため、南北半球で温度差が生じるそうです。面白いですね~。

ダストの効果

火星の気象で特徴的なのは、ダストと呼ばれる微粒子の存在です。(地球にも存在しますが、火星は量が段違いです。)火星の空が赤っぽく見えるのは、ダストによる散乱によるものです。ダストは太陽光を直接吸収するので、火星の気温はダストの発生量にも大きく依存するようです。ダストによって上層の大気が暖められ、鉛直方向に安定した大気にしており、大気の対流活動を弱めています。

火星では惑星規模の砂嵐(ダストストーム)が時折発生します。南半球の春から夏にかけて発生することが多く、南北の温度差を解消するために大気の流れが大きくなるためと考えられています。

まとめ

惑星の気象を淡々と説明する本書。フィクションでは容易に対応しているように見える地球外惑星活動ですが、思いもよらない環境が存在していることを再認識させられます。ただ地球から程遠く思える宇宙の星々の現象が、科学的に説明可能であるという事実に心踊ります。

やっぱり住むには地球が一番ですね(笑)