もはやSF作品でも定番となった『宇宙エレベーター』。
本書は、宇宙エレベーターの設計思想,開発背景,課題 などから論じています。具体的な議論を読むことで、絵空事ではなく実現可能な技術に思え、胸が高鳴ります。
スペースシャトルがその役目を終えて久しい今、未来の宇宙への架け橋に期待せずにはいられません。
宇宙エレベーターとは
宇宙エレベーター、もしくは軌道エレベーターとは、本書の言葉を借りると以下のように定義されます。
宇宙からケーブルを垂らし、それを地球まで伸ばす。ケーブルは角運動量によって垂直に保たれている。そのケーブルを伝って、ケーブルカーのような乗り物が、ケーブルと車輪との摩擦を利用して昇っていく。それはちょうど、人間がロープをよじ登るときと同じ原理である。
ー本文より
文字通り宇宙への架け橋となります。
現在 宇宙への旅路は化学ロケットに限られます。「化学ロケットしか方法がないから」です。しかし、ロケットの打ち上げには莫大な費用がかかります。1kgのものを地球低軌道(地表から350km)に上げるためには、約100万円の費用がかかるそうです。
いったん宇宙空間に到達さえしてしまえば、その中を飛行する技術の高さは、人工衛星,国際宇宙ステーションの長期運用が証明しています。
我々を地球に縛り付ける重力が、宇宙への旅路を阻害しているのです。
宇宙エレベーターの概念は、古くからSF作品で数多く述べられていました。アーサー・C・クラークの「楽園の泉」によって、一般大衆にも広く知られた技術となりました。しかし、長らくお話の中の空想技術と位置づけられていました。
その主要因がケーブル材料です。当時 もっとも強度を誇った材料でも、強度,重量の基準を満たしませんでした。しかしカーボンナノチューブの発見によって、にわかに注目を集めました。
2000年代から技術協議会などが催されているものの、残念ながら2018年現在 実際に建設計画が進んでいる話は聞きません。
宇宙エレベーターの建造方法
続いて、本書で述べられる宇宙エレベーターの建造方法をかいつまんでご紹介します。
ケーブルの敷設
何においても最初のケーブルを敷設する必要があります。最初の手綱だけは宇宙空間から、なにもない空間に対して垂れ下げながら敷設されます。
そのためには、ドラム巻きされた10万kmにおよぶケーブルをロケットで宇宙空間に運ぶ必要があります。10万kmは、地球ー月間距離の約1/4と、途方もない長さのように思えますが、地球上に張り巡らせた光ファイバーやケーブル群から比較すると、それほど長距離ではないようです。
こうして最初のケーブルが宇宙と地表を結んだ後、ケーブルは徐々に補強されていき、最終的に20トンのクルーザー重量を支える太さになります。
クルーザー,アースポートの建設
ケーブルが完成後、あるいは同時並行で、ケーブルを実際に昇降するクルーザーと、地球側のケーブル固着点となるアースポートが建設されます。
なお本書で提示されたクルーザーの速度は時速200kmで、地表から静止軌道まで約7日要するそうです。そうなると、最低限の生活空間が必要となりますね。
アースポートは、必ずしも赤道上に建設する必要はないようです。しかし、気候条件,政情条件を鑑みるとある程度候補地は絞られます。米国としては仮想敵対国近隣に建設したくないのは当然で、建築物そのものより、場所選定が難航しそうに思えます。
電力供給
ケーブルはカーボン製ではあるものの、完全な伝導体ではないため伝導線として利用することはできないようです。
そうなるとクルーザーに発電機構をもたせる必要があります。かといって人工衛星のような太陽光発電パネルは重量過多なので、地表からマイクロ波でレーザー照射する方法が検討されているそうです。
宇宙太陽光発電と同原理ですね。将来的には宇宙エレベーターを通して、宇宙太陽光発電の材料が、地表から宇宙に運搬されるのかもしれません。
安全上の問題点
建造の技術的課題がクリアされたとして、実運用にも課題があります。
宇宙空間の放射線,地球磁場,ヴァン・アレン帯などの外的要因。ケーブルに生じる誘起振動,誘導電流,熱による伸縮。はたまた政治的緊張,テロリストの驚異など、国際施設であるからこその課題も。
とにもかくにも、宇宙エレベーターの心臓部であるケーブルに最大限の注意とメンテナンスを図る必要があります。
政治的リスクも可能限り排除しなければなりません。が、宇宙エレベーターの影響度を考えると、各国の思惑が交錯することが容易に想像されます。
問題が生じたときの被害が甚大なだけに、綿密な事前計画が必要ですね。
まとめ
途方もない建築物のように聞こえる宇宙エレベーター。しかし何事も検討しないうちから、実現不可能性を論じているようでは一切の発展がありません。
「何が駄目で、何をクリアすれば実現できるか」。ひとつひとつ課題を潰していきながら、実現可能性を模索していくことが科学のあり方ですね。
本書では他にも、月,火星にも同様のエレベーターを建設する計画とその実現可能性、具体的に宇宙に到達して何を行うか等が紹介されています。この記事で紹介した建設工程やリスクもほんの一部をかなり簡略化していますので、是非とも本書を手にとって内容を確認頂きたいです。
最後に本書の一節を引用して、まとめにしたいと思います。
1957年、ロケットはまだ宇宙に到達していなかった。しかし12年後の1969年、人類は月面を歩いていたのである!