色彩学習の第一歩『光と色彩の科学』

 

下のドレスの画像を覚えていますか?人によっては「白と金」「青と黒」に異なって見えると話題となりました。

これは色の恒常性による錯視として説明されています。(非常にわかりやすいTwitterの書き込みがありましたので、お借りしました。)

ドレスの画像は、「色」を感覚として知覚することの不思議さを投げかけてくれます。

他にも暖色寒色膨張色・収縮色という言葉の通り、「色」は人間の心理効果にも訴えます。

色のクオリアという言葉を聞いたことがあるかもしれません。私が見ている赤色と、他の人に見えている赤色は同じ赤色なのか。私が青と認識している色が、他の人は赤と感じているかもしれません。個々の感覚による差異なので確かめる術はありません。

色の違いは物理的には電磁波の波長の違いですが、色は主観的に感じる感覚の強さ, 感覚量 なのです。


本書『光と色彩の科学』は、色彩学の基礎から始まり、生理学、色彩の科学、構造色、心理学、光技術の応用と、色に関する幅広い知見を予備知識無しでもわかりやすく学習できる一冊となっています。

色の正体

”光がなければ色彩がない”。当然のことのように聞こえるかもしれませんが、これが色彩の本質と本書では述べられています。

科学的な見地から光と色彩を扱った例として、ニュートンの実験が取り上げられています。ニュートンといえば、プリンキピアや微積分の功績が有名ですが、光学についても研究を行っています。(Wikipedia 「光学 (アイザック・ニュートン)」)

ニュートンは光をプリズムで分割し、光の中に虹の七色を見出しました。また これらをレンズで再度集めてやると、無色の白色光に戻ることを確認しました。ニュートンの時代、「光は白色」が常識でしたが、色が混ざったものであることを発見したのです。

ニュートンのすごいところは この実験から発想を飛ばし、分割された光のうち特定の光を除いて確認を行ったことです。例えば緑の光を除いてやると、集められた光は赤に見えます。現代の我々の知識では、赤と緑は補色関係にあることを知っていますが、当時一般の常識から考えると驚くべき発見でしょう。

さらに様々な組み合わせを試し、赤・緑・青を混ぜると白色になることを発見しました。今日我々が知る 光の三原色です。


ニュートンは実験を経て、色の本質を理解していました。「光自体には色彩がなく、色彩を見るために光が必要である。
ヤングとヘルムホルツはさらにこの考えを推し進めました。「我々がもつセンサーが光という信号を受信して、色彩を感知する。

実験結果から物事の本質を理解する先人の発想力は素晴らしいですね!

色彩の表現

色彩には赤・青・緑・黄色…など名前がついていますが、それぞれの感じ方は個々によって異なります。これは文化的・言語的な周囲環境による寄与が大きいのでしょう。

このことから万人に共通の色彩表現の標準化が進められました。

例えば、htmlでの色名称(カラーコード)。白は#FFFFFF,黒は#000000などの16進数による表記は多くの方がご存知でしょう。これも色彩表現の一つです。


光の三原色を生理学的に言い換えると、人間は 3つの波長領域(赤・緑・青に相当)に反応する3つの錐体細胞を有する 3色型色覚です。3つの錐体細胞が得た刺激(信号)の組成差によって、脳が色を知覚します。

これを数的に表現したのがRGB表現で、色彩を赤(R)・緑(G)・青(B) 刺激の任意の割合で線形結合表現するものです。(正確には3つの刺激の割合である係数を相対化するために、RGB=1となるように換算した係数が使用される。)

RGB表現は人間の色彩の知覚を直接的に表現しており 直感的にわかりやすいのですが、全ての色を表現するためには係数が負の値になることもあります。(特定波長の色彩(単色波長)と3原色の足し合わせで得られた色彩を、生化学的に比較する等色実験を行うと、3原色の足し合わせでは表現できない色が存在する。単色波長側に3原色のいずれかを足し合わせると等色となる。つまりその色を再現するために単色波長側に足し合わせた成分は、負の係数をもつ成分ということになる。)


Wikipedia 「CIE 1931 色空間」よりCIE 1931 RGB等色関数。特に赤に対応するr成分の負の領域が顕著に見られる。

負の値をもつという不都合を解消するためにXYZ表現が考案されました。3原色に対応する刺激ではなく、架空の基本刺激としてX,Y,Zを使用しています。

RGB⇨XYZ表現の変換は、こちらのサイト様が非常にわかりやすく解説していましたので ご紹介させていただきます。https://qiita.com/Ushio/items/203f16ad1e23fd42231c

このような色の線形表現を空間上に示した色空間は、色の関係を視覚的に表現するのに適しています。


Wikipedia 「CIE 1931 色空間」よりCIE 1931色空間の色度図。

色彩の心理学

色彩は、人の心理や生体活動にも影響します。暖色寒色は最たる例ですね。

プレゼン資料の配色に苦労した経験がある方も多いと思います。同じ内容でも 配色によって結果の受け取り方まで変わってくることもあります。

時間感覚

色彩は時間感覚にも影響します。

寒色は時間を短く感じさせる効果があるようで、例えばダイバーが感じる時間は 周囲の海の色の影響で実際より短いため、酸素不足に気付かずに亡くなる方もいるようです。会議室を青色にすると、退屈な会議も短く感じることができるかもしれませんよ。

イメージとのリンク

色彩,色彩の組み合わせはモノとイメージに、密接にリンクしています。

日本人は緑は平和、青は知性、赤は熱意、紫は高貴、ピンクはかわいいと感じます。

しかし色の感じ方は国・文化圏によって異なるようで、例えば 緑はヒンドゥでは愛をイメージさせるそうです。黄色はユダの着衣の色であったため、欧米ではマイナスイメージが強いようです。海外に行った際に、その国の商品パッケージを見ると、各国が色に持つイメージが分かるかもしれませんね。
参考:流通視察ドットコムより http://www.ryutsu-shisatsu.com/article/15264486.html

赤と黄色はマクドナルド、赤と緑はクリスマスを想起させます。IT系企業のロゴに寒色系の使用が多いのは、寒色が持つスマートなイメージを利用してのことでしょう。

あなたの好きな色はなんでしょうか? 好きな色は自身の好きなモノとリンクすることが多いようです。

まとめ

色彩の基礎と 色彩と心理学を簡単に紹介しました。本書には他にも以下について触れられています。

  • 人が色を見る仕組み(センサーの仕組みですね)の生理学
  • 光の科学
  • 染色 等の色彩の科学
  • 油膜はなぜ虹色,空の色はなぜ青い 等の構造色
  • 光を利用した技術

 

「色」がもつ文字通り 色気に酔いしれる第一歩として最適な一冊かと思います。個人的に この本から色と心理学に興味をもったので、そちらを掘り下げた本も読んでみたいですね。