高橋 昌一郎 氏による「限界」シリーズ第一弾。
ディベート形式で理解が進みやすく、またサクサク読み進められるため再読も楽しいですね。
不可能性・不確定性・不完全性
「理性の限界」では、以下の内容が議論として取り上げられています。
- 投票のパラドックス
- アロウの不可能性定理
- 囚人のジレンマ
- 合理的選択の限界と可能性
- ハイゼンベルクの不確定性原理
- EPRパラドックス
- 科学的認識の限界と可能性
- ぬきうちテストのパラドックス
- ゲーデルの不完全性定理
- 認知論理システム
- 論理的思考の限界と可能性
広範な内容を取り上げているため、新書のページ数では議論が不足する箇所があるのも事実ですが、登場人物に様々な主義主張を登場させている点が議論そのものを面白くさせています。みんな大好きカント主義者がいい味を出していますね。
今回は数ある議論内容から、印象深かった「進化論的科学論とパラダイム論」を取り上げてみます。
進化論的科学論とパラダイム論
「批判的思考」の実践によって、科学は真理へ接近していくと考えました。
その結果として形成される「新しい」科学は「古い」科学よりも多くの批判に耐えうるものであり、その意味で科学は「進化」しているとみなされるわけです。過去の科学理論は自然淘汰され、芸術作品のような意味で生き残ることはありません。ですから「科学」とは、完結した作品ではなく、むしろ進化の「経過」あるいは「方法」として認識されるべきかもしれません。
ー本文より引用
クーンによれば、科学は、ポパーの言うように「客観」的で、より優れた理論に進化するようなものではないのです。むしろ、科学とは、政治家のように、科学者集団が「主観」的な科学的認識そのものを変遷させていく歴史なのです!
ー本文より引用
新しい科学こそが正しい,真理に近しいという考えと、両者に概念の共通項はなく、優劣は比較できないという共役不可能性があります。盲目的に新しい理論が正しく より良い、という考えを信奉することは危険です。
「科学こそが宗教」とよく言われる通り、科学も信念体系の一つに過ぎないことを忘れてはなりません。
※もちろん ワクチン接種を拒否する等、現代科学を否定するわけではありません、笑
ただし行き過ぎると、「何でも良い」方法論的虚無主義に陥ると述べられています。全て個人に委ねられる自由は尊重されるべきですが、オカルトやエセ科学が蔓延するきっかけにもなり得ます。
まとめ
本書は上記のように、あるテーマに沿って 異なる立場の参加者がディベートする形式をとっています。
難解な概念を知るきっかけにもってこいの一冊かと思います。私もこの本から、哲学的概念に興味を持ちました。