生命の機能をシステムとして再現する『人工生命入門』

 

「人工生命」。どこか禁忌の香りがする言葉です。

しかし、本書で紹介している技術は私たちが一般に想像する「命の創造」とはかけ離れて見えます。それもそのはず、本書の冒頭に説明されている通り、人工生命は「生命」がもつ機能を実現する「システム」とされています。

一般的に言うと、「人工生命」は、それ自体で「生命もどき」のもの(システム)を生成する。そして、実現された「システム」は、形態にかかわらず、「生命」がもつ機能を実現する。また、「人工生命」は、「生命」のような「システム」自体として存在する。

ー本文より引用

このような「人工生命」は「コンピュータで生成された生命」という概念を使用されることもあるそうです。そもそも「生命」の定義が経験的なものでしかない以上、万人が納得できる「生命とは何か」の解答はないのでしょう。ウイルスが生命であるか否かも、議論がわかれるところです。

本書では、「生命」および「人工生命」の哲学的議論は必要としながら、存在するという前提のもとでいくつかの「人工生命」を解説しています。本記事では、その中から「セル・オートマトン」を簡単にご紹介します。

セル・オートマトン

セル・オートマトンは、「自己増殖」を行う離散計算モデルです。格子状のセルの内部状態は、時間経過とともにルールによって変化します。その変化はセル自身と、周囲のセルによって決定されます。

有名な例はライフゲームでしょう。ライフゲームでは、セルごとに生・死(あるいはON・OFF、1・0)の状態があり、セルの次世代の状態は近傍の8個のセルからルールに則って決定されます。

  • 生存:生きているセルの近傍に、2個または3個の生きているセルがあれば、次世代でも生存する
  • 死亡:生きているセルの近傍に、生きているセルが1個以下または4個以上であれば、そのセルは次世代で死亡する
  • 誕生:死んでいるセルの近傍に、3個の生きているセルがあれば、次世代では生きる。

言葉で説明してもイメージが湧きづらいですが、ニコニコ動画に非常にわかりやすい解説動画がありましたので紹介させていただきます。

単純なルールにかかわらず、生成される結果は非常に複雑で発表された当初は多くの研究者が熱中したそうです。適当に初期状態を決めても、多くの場合 全てのセルが死亡してしまったり、特定のパターンで振動するセルが残ったりするだけですが、うまく設定してやると自己増殖を繰り返すパターンを作ることも可能です。生命の基本機能である自己増殖を再現できることから、「人工生命」のモデルとして研究されています。


また、ライフゲームはチューリング完全であることが証明されています。すなわちライフゲームのパターンで計算機を実行することが可能ということです。同じくニコニコ動画から紹介、ライフゲーム上で「ライフゲーム」を動かしています。何のこっちゃと思われるかもしれませんが、動画をご覧いただくと、その意味がわかると思います。

プログラミングの初歩として使用されることも多いライフゲーム。複雑系を身近に感じることができる とても良い教材です。

人工生命の将来

「セル・オートマトン」を既存の生命と比較して、新しい生命体と認識することは難しいでしょう。しかし現在 著しい進化を遂げている人工知能ではどうでしょうか?仮に人間と同等(あるいはそれ以上)の人工知能が、自己複製を果たすのであれば、生命体として認められるのと同時に、脅威として映るのではないかと思います。

本書で述べられている人工生命の一例として、人工臓器などの「ウェットウェア」が挙げられています。このようなウェットウェアは健常者にも組み込まれ、病気の状態を自動で診断する技術も将来的には検討されています。仮に悪意を持った者が、わざと病気を発現させる機能をもたせることも原理的には可能でしょう。どんな技術でもそうですが、使い方によって善にも悪にも応用可能です。特に「生命」といった倫理的な問題を多く孕んだテーマなので、深く議論されるべきでしょう。

まとめ

「人工生命」と聞くと どこかマッドサイエンチックに聞こえますが、本書で紹介されている技術は、生命の機能をシステムとしてシミュレートしたものとなっています。ここでは紹介しませんでしたが、本書中の「ニューラルネットワーク」,「遺伝的アルゴリズム」は様々な分野に応用されている技術でもあります。

「生命」をシステムとして再現するというテーマに興味があれば一度ご覧になってみては如何でしょうか。ただしあくまで技術の紹介に留まっているため、自分でやってみたいという方は、この本を足がかりとして各種専門書に進まれることをオススメします。

おまけ:ライフゲームの実行環境。Windows, Mac, Linuxの他、スマホ用アプリもあります。(リンク先ではApp Storeにも確認できましたが、アプリーチでは検索できず…。iOSの方はリンク先を参照してください。)
http://golly.sourceforge.net/ (注)外部サイト

Golly

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Andrew Trevorrowposted withアプリーチ