TV広告はもう古い?『ファンベース』

 

話題のマーケティング指南書『ファンベース』を読みました。

ファンの時代

以前のコラム『購買心理とライブコマース』で、「オススメされたいものを買いたい欲求」について触れました。この本はまさに自分が感じていることを、わかりやすく言語化してくれていました。

なお、コラム『購買心理とライブコマース』では、最終的に「広告がパーソナライズ化する」と結論付けています。将来的には、広告が完全に個人とマッチするパーソナライズ化となることは間違いないでしょう。しかし この本を読み、その前に「ファンベース」の時代がくることを強く感じました。

余談ですが「広告のパーソナライズ化」と聞くと、 フィリップKディックの短編『広告地獄』を思い出します。広告の未来を皮肉ったブラックユーモアで、ラストシーンにゾッとします。


『ファンベース』によると、ファンとは「支持者=企業やブランド、商品を大切にしている『価値』を支持している人」と定義されています。

そもそも 何故これからの時代、ファンベースが重要視されるのでしょう。

本書では、現在の日本の状況をさして、既存の広告戦略では宣伝効果が薄いことを指摘しています。何点が要因が述べられているのですが、ここでは情報の氾濫についてご紹介します。

選択肢が多ければ多いほど人は選ぶのに悩み、選んだ結果が本当にいいのか気にもなり、自信をなくし、結局選ぶのをやめてしまう。

ー本文より引用

私にも経験があります。何か勉強を始めようと入門書を選ぶんですけど、数がありすぎてどれが良いか迷ってしまいます。仮に買ったとしても、本書で指摘されている通りに「選んだ結果は本当にいいのか気になって」しまい、別の入門書を手にとってしまいます。情報の選択肢が多いからこそ、失敗したくないんでしょうね。

買うものが決まっているファンは、迷うなんてことはしません。しかもファンは他の人にオススメをします。「オススメされたものを買いたい欲求」ですね。上記の入門書を選ぶときでも、Amazonの評価やレビューを参考にしてしまいます。


SNSは時代を大きく変化させていると述べられています。これまでは、自分のコミュニティは会社と家族,ご近所および数名の友人だけでした。しかしネットを介して、好きなものが似ている傾向が強い仲間(ホモフィリー)と独自のコミュニティを形成します。確かにTwitterを利用していると、国民全員がシン・ゴジラを劇場に観に行き、マッド・マックスを絶賛している錯覚に陥ります(笑)。

自分の価値観に近い人のオススメは、詳細は知れずとも気になってしまいます。私もTwitterの書き込みを見て『シン・ゴジラ』を鑑賞した口です。ゴジラシリーズは『ゴジラVSデストロイヤー』しか観たことがなかったのに関わらず、「へー、そんなに面白いんだ」と興味を引き立てられました。結果は観に行って大正解!の面白さで、私自身もSNSで感想を発信しました。こうしてファンが新たなファンを生み出すんですね。


ファンについて、BtoBの例にも触れています。新しい機器やサービスを利用導入の検討の際、「同業者が既に利用しているか」が大きな決定因子を占めます。

私自身も仕事をしていて、「選ぶ立場」「選ばれる立場」双方でよく経験します。営業の方に「他で導入事例はありますか?」と毎回聞いていますね(笑)。

ファンの信頼を構築する

一昔前 楽天では、購入した店舗と同ジャンルのメルマガ配信について、不要な場合はひとつひとつ✔を外させる仕様でした。またページをスクロールしないと そもそもメルマガ配信の項目が見えませんでした。これは大変不評で不満が噴出していました。
今ではひとつの✔ボタンで、一括してチェックが外れるようにUIが変更されています。

2017年頃 スマホ上で画面のスクロールに対して、少し遅れて広告が移動する形態(オーバーレイ広告)がありました。今は規定が変更されなくなったようです。こちらも誤タップを狙った方式で、悪評が立ちましたね。

このような ユーザーの信頼を損ね、ブランド価値を貶める広告形態は止めるべきと述べられています。ファンベースは中長期的に効果を狙っていく戦略です。短期的には効果があるけれど、短絡的で「信頼」を崩す施策は逆効果です。

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よく自虐的に「自分の会社の製品は絶対に買わない」と言っている人がいますね。会社に対して信頼感をもっている社員の割合は、日本がもっとも低いようです。大転職時代の今、優秀な社員に会社に残ってもらうためには、社外の前に 社員に愛着を持ってもらう必要があります。

例えば、外部に対しては「製品の信頼が第一」と謳っているにもかかわらず、製品検査がいい加減に実施されていれば、会社や製品に対して社員が愛着を持てるはずはありません。組織全体でミッションの共有を再確認するべきでしょう。

スターバックスでは、ミッションの共有に研修の大部分の時間をあて、逆に現場ではミッションが浸透した社員の裁量に任せているそうです。サービスの「ガワ」を整えるのではなく、意識を共有しているのですね。

まとめ

日本人の判断基準は減点方式とよく言われます。全体として概ね製品に満足しても、ひとつでもアラがあれば印象を悪くします。こういった国民性に対して、ファンという支援者を作るマーケティングは非常に有効でしょう。

ただ熱狂的なファンは外部敵を作る要因にもなります。ファンの素行が悪いと、落ち度はなくとも製品そのものの悪印象に繋がります。ファンと製品・サービスが一体となって成長できる手法が望ましいですね。

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これからの時代のマーケティング手法、「ファンベース」についてまとめられた本書。本記事ではざっと概要にのみ触れました。本書では他に、実際の実践手法や、実行する上でのポイントが述べられています。本書を参考に、自社・自作製品のマーケティングに活かしてみてはいかがでしょうか。